国立工業高等専門学校は、我が国の科学技術のさらなる発展に対応できる技術者を養成するため、昭和37年に設立されました。現在、全国に51の国立高専がありますが、その始まりはわずか12校でした。創設63周年を迎える旭川工業高等専門学校は、その第一期校として設立された歴史と伝統を誇る高専です。
開校当時の日本はまさに高度経済成長期の真っただ中にあり、石炭・石油などのエネルギー開発、白物家電の普及、新幹線をはじめとする交通インフラの整備などを支える技術者の育成が急務でした。資源の乏しい日本が科学技術に依存せざるを得ない状況や、産業界が研究開発に積極的に資金を投じていることは現在も変わりませんが、半世紀以上の年月を経た今、技術者に求められる能力は大きく変化しています。日常の多くのことがスマホで完結し、化石燃料から再生可能エネルギーにシフトし、ドローンが物資を運び、自動車は自動運転になろうとしています。このような、いわゆるソサエティ5.0の実現には、従来の個別知識の深化だけにとどまらず、様々な分野の技術を統合した総合知が求められます。高専における技術者育成も、こうした社会構造の変革に対応していかなければなりません。旭川高専は、充実した教職員のサポートのもと、まさにこのような人財を育成する高等教育機関です。本校の教員は、工学の基礎となる知識だけでなく、最新の科学技術の動向を常に注視し、それを学生教育に還元する努力を惜しまない姿勢で臨んでいます。たとえば、AI・数理データサイエンス分野では、これまで国立高専51校の中で拠点校として活動してきました。また、ラピダス社の設立にともない、道内4高専の拠点校として半導体分野を中核とした最新の科学技術を担う人財の育成にも取り組んでおります。
しかしながら、こうした最新技術もいつかは古くなり、陳腐化することを忘れてはなりません。旭川高専を卒業した学生は、その後30年、40年にわたり日本の科学技術を支えていく存在となります。高専で学んだかつての先端技術も、いずれは時代遅れと感じる日が訪れるでしょう。将来の社会がどのように変革するかを予測することは誰にもできませんが、そうした変化にも対応し得る唯一の方法は、確かな基礎力を身につけることです。時代が大きく変わっても、科学技術の基礎は不変です。確かな基礎力を培うことで、どのような社会にも対応できる柔軟な技術者として活躍することができます。旭川高専では、先端科学技術の習得のみならず、それを支える基礎学力の育成にも力を注いでいます。
本科では、優れたエンジニアに求められる豊かな教養と体系的な専門知識を身に付けるため、一般教育と専門教育とをバランスよく配置した5年間一貫のカリキュラムを構築しています。大学教育とは異なり、実験・実習・演習を重視し、修得した知識を実践できるよう配慮しています。専門分野として、本科には機械システム工学科、電気情報工学科、システム制御情報工学科、物質化学工学科の4学科を設置し、国際的にも通用する実践的な科学技術力を養成しています。学生の皆さんは、それぞれの分野で専門性を高め、実社会で生かせるスキルを身につけることができます。
また、本科修了後の課程として、生産システム工学専攻、応用化学専攻からなる2年間の専攻科を設置しています。専攻科では、本科5年間の学びを基礎に、工学の知識と技術をさらに深め、高度なエンジニアの育成を目指します。所定の要件を満たして専攻科を修了すると、大学卒業と同等の学士の学位が授与されます。学生の皆さんは、本科以上に高度な科学技術力を習得し、より専門性の高いエンジニアとして活躍できる力を身につけることができるようになります。
さらに、地元の課題を積極的に解決することを目的としたPBL(課題解決型学習)授業も全学科で開講しています。加えて、校内に起業家工房を整備し、自ら開発が必要と判断した課題に対して、いつでも取組むことができる環境を提供しています。
本校の教育理念は「国際的視野を持ち社会に資する人間性に富んだ高度で実践的な技術者を育成する」ことにあります。技術革新のスピードが加速する現代においても、この理念のもと、変化に適応し、地域社会や国際社会の発展に貢献できる人財を育てることが私たちの使命と考えています。旭川高専は、これからも未来を見据えた教育を推進し、世界に通用する技術者の育成に取り組んでまいりますので、皆様のご理解とご支援をよろしくお願いいたします。
校長 矢久保 考介