浜田良樹の仕事
浜田良樹の研究活動
法律とビジネスとエンジニアリングのはざまで
私は東北大学法学部でリーガルマインドを植え付けられた文系の人間です. その後大学院・そして講師・准教授に至るまで母校・東北大学の理系部局である大学院情報科学研究科に所属し,理系の研究者と競争するためには英語による教育研究能力と,グローバルに使えるものが必要だと考え,第3次ベンチャーブームの中で「BASEビジネスゲーム」を発明し現在9カテゴリー19種を保有するに至っています. また,法学は個人情報保護法を一貫して追いかけていますが,これに限らず情報技術と法律として幅広く門戸を広げ,人工知能とその法的・倫理的問題(ELSI問題, Ethics, Law, Society Imprecationsの略)を研究しています. 結果としてICT,法律,ビジネスなど幅広い分野で働ける学際領域の研究者となっています.
情報技術と法律
私が大学院博士前期課程の学生だった1995-6年,この直前に商業利用が自由化されたインターネットにおいてわいせつな情報があふれ,米国では深刻な社会問題になっておりました. 折しも通信の世界では,副大統領のゴアが提唱した「情報スーパーハイウェー構想」に基づきAT&Tの分割,相互接続の義務化,ユニバーサルサービスの確保などの課題に対応すべく通信法改正が行われました. わいせつ情報対策は通信法改正の一部とされたのですが「インターネットは権力から自由な公共圏」とする勢力により激しい批判を受け,「表現の自由の死を悼む」としてYahoo!等の大手も加わりホームページの背景を真っ黒にするキャンペーンが広がりました. しかし注意深く条文を読んでみれば,過剰反応であることは明らかでした. 私はこの条文を日本語訳しホームページに掲載し,学会発表をしました(1, 2番)それが弁護士の藤原宏高氏の目に留まり,1997年に日本経済新聞社から『サイバースペースと法規制』(1番)を出版するきっかけになりました.
その後はもっぱら個人情報保護をめぐる立法の動きをウォッチしました. ご存知のように2003年の初代個人情報保護法制定,2005年の一般企業も含む全面施行の頃,企業も個人も何をしていいのかわからず,とにかく隠すという過剰反応が起きました. 例えば本来法の名宛人ですらない町内会長が内容をすべて暗記したうえで会員名簿を廃棄するとか,修学旅行で全員回れ右をして集合写真を撮るなどのおかしな動きがまん延しました. これらも法の無知に起因するものに他ならず,定期的に日本セキュリティ・マネジメント学会で発表し(国内学会発表の9番、13番、17番、28番),その議論を踏まえて日本内部監査協会が発行する「監査研究」に書いておりました(招待論文の1番、2番、7番、11番).
最近ではAIをめぐる法律問題に参入しています. 最新のAI技術は実用化にあたって法的・倫理的・社会的問題を引き起こす可能性があって,研究者はそのような危険を認識して開発にあたることが求められます. 私は人工知能学会のように大所高所的観点には立たず,名古屋工業大学で開発されたCOLLAGREEというAIを用いた集団的合意形成支援システムに立脚し,2017年12月にはじめてELSI委員会を開催しました. 人工知能学会誌に掲載された論文(8番)や一部の発表(35番, 38番, E24番) がこれに該当します.
思うに技術は川の流れるがごとく決してその進化を止めることがないものです. これに対し法令や社会における制度は緻密なコンセンサスの上に慎重に構築されていきます. 時間差(ギャップターム)が生じることは避けられず,ギャップターム中にエンジニアはどのように行動すべきか,法令を作るとなればいわゆる事務屋にどのようにして技術を分かってもらうかというところに,法律をベースとしたMOTに対するニーズがあるのでしょう. 私が東北大学以来一貫して14年間にわたり「情報法律制度論」「技術と法」などを担当し続けているのは,そういうことができる人が少ないからだと自負しています.
シミュレーション&ゲーミング
ビジネスゲームの例:製造業ゲーム
第3次ベンチャーブームの渦中の情報科学研究科にはいろいろな人が来ました. 彼らはデューデリジェンスとビジネス相談の区別がついておらず,しばしばビジネスを教えてほしい,それも手短に手っ取り早くとの依頼を受けたのです. それならばゲームなどどうだろうと考えて開発したところ,各地で熱狂的な歓迎を受けます. 2013年に国際シミュレーションゲーミング学会(ISAGA)第45回大会にワークショップを出展したところ,「ジャパニーズ・ビジネスゲーム!」として人だかりができ,あまりの人気にもう1回アンコールを行うという学会では前代未聞の出来事がありました. その後14年にはISAGAにて受賞. 15年からは日本シミュレーション&ゲーミング学会(JASAG)にて理事・学術副委員長を務め,17年からは委員長になっています. 2018年の第49回大会をタイに誘致する活動を行い,2018年7月9日―13日に行われた学会には20か国から160名が参加する盛況に終わり,現在ISAGA会長を務めています.
これは,単にゲームを作って学生とともに楽しむだけではなく,様々な工夫を凝らして設定を変えるなどしてアンケートを取り,その結果を分析して論文とする地道な実践型研究でもあります. 実際SCOPUS掲載紙の「シミュレーション&ゲーミング」はISAGAと同時に創刊以来49年休むことなく続いており,姉妹団体も各種ジャーナルを発行しています. 私どもは創刊号のThaisimジャーナルのトップページを飾る(1巻1号p1, EA-1)など原稿書きにも余念がなく(EA-2, 3, 6, 7, Eb-2, EB-3,その他多数),2009年以降の学会発表は30回を超えています.
ひとたび手放せば簡単に模倣されてしまうことから,東北大学,タマサート大学,客員で教えているフランスのEPITECH以外では実施していませんが,たまに企業研修の依頼がありそのような際に対応するため大学発ベンチャー(有限責任事業組合)を持っていた時期もあります. 最近では工学研究科・医工学研究科が関わる「アース・オン・エッジ」起業家教育プログラムのカリキュラムとなり,東北大学でも運用を再開しております. 現在勤めているタマサート大学シリントーン国際工学部(SIIT)技術経営専攻では4年生の終わりにこれを行います. まさしくMBAの導入,MOTの締めくくりにふさわしいアクティブラーニング教材であると自負しております.
イノベーション研究
2014年7月にSIITに赴任してからはタイにおける企業におけるイノベーションの研究をしました. 例えばタイの自動車用電球サプライヤーであるS社のイノベーションは,初期には中元のトヨタやホンダの直接の指導により実現し,やがて自社人材が育ち,日本メーカーの関与は限定的になり,今はほぼ自立している等のケーススタディを数多く行いました. これらはSIIT技術経営専攻「ロジスティクス&エンジニアリング研究ユニット」の一員としてJETROやERIAのファンディングにより行われたものです. 私は日本人が出てきたときのインタビュー,デスクワークとしては投資優遇認可,税務,労働法務などを中心にこの研究に参加しております(EB1, EA4, EA8, EA9).帰国後は東南アジアの製造業におけるイノベーション研究として貴重な実績になり,学生に実際の経験を語れると思います。
国際ジャーナル論文(査読付)(EA)
EA-1. Ryoju Hamada,Masahiro Hiji and Tomomi Kaneko,“Development of BASE Manufacture Game in Thai”, Thaisim Journal: Learning Development (TSJLD), Vol.1, No.1, pp.1-17, 2016
EA-2. Tomomi Kaneko, Ryoju Hamada and Masahiro Hiji, “Fundamental Research of Knowledge Creation using BASE Business Games”, IEEJ Transactions on Electronics, Information and Systems, Vol. 126, No. 12, pp.1721-1725, 2016
DOI: 10.1541/ieejeiss.136.1721
EA-3. Tomomi Kaneko, Ryoju Hamada and Masahiro Hiji, “Fundamental Study of Key Factors Promoting Smooth Penetration of AI using Analogue Business Games”, Journal of Intelligence Informatics and Smart Technology (JIIST), Vol.1, No.1, Sec.4, pp.1-5, 2016
EA-4. Chawalit Jeenanunta, Natthalika Rittippant, Porntimol Chongphaisal, Ryoju Hamada, Natchajalin Intalar, Kimseng Tieng, and Chumnumporn Kanchanok, “Human resource development for technological capabilities upgrading and innovation in production networks: a case study in Thailand”, Asian Journal of Technology Innovation, pp. 1-15, 2017
DOI: 10.1080/19761597.2017.1385976
EA-5. Ryoju Hamada, Junichi Kameoka, Yoshinari Kagaya and Yutaka Kagaya, “Interdisciplinary education for Physician’s Confidentiality by interdisciplinary collaboration between medical and law teachers”, Interdisciplinary Information Sciences, Vol. 23, No. 2, pp.145-162, 2017
DOI: 10.4036/iis.2017.R.02
EA-6. Nalinee Chairungroj, Ryoju Hamada, Tomomi Kaneko, Masahiro Hiji, Teeranai Ruenpak, Phatharavadee Pitkhae, Nattanit Piromkij, and Natthawadee Surachaisitiku,“Development of BASE Mass Manufacturing Production Game”, Thaisim Journal: Learning Development (TSJLD), Vol.2, No.2, pp.37-52, 2017
EA-7. WW.M. Ruvini M. Weerasinghe and Ryoju Hamada, “Educational Games as an Active Learning Strategy for University Students”, Thaisim Journal: Learning Development (TSJLD), Vol.2, No.2, pp.25-36, 2017